青い鳥
















 生まれてから二歳まで住んでいた、じぶんにとってのいわゆる生家というも のが平芝町の一角にいまもなお残っている。平屋建ての古い官舎で、庭がずい ぶん広かった。どれくらいの築年数なのか気になって父のかつての勤め先に問 い合わせてみたところ、ことしで五十五年になるそうである。
 ふとしたきっかけで十五、六年まえにそこをたずねたときは空き家になって いて、たまたま出会った向かいの家のおばさん(おばさんは赤ん坊だったころ のわたしをおぼえていた)といっしょにその庭へ忍び込んだことがある。濡れ 縁にすわって眺めるとおだやかな秋の光につつまれた芝生は黄金色に輝き、なかなか住み心地のよさそうなところだと思った。いや、実際に二歳までそこに 住み、這いずりまわって縁側から転げ落ちていたとのことではあるが。
 昨年末にたずねたときには雑草が伸び放題でずいぶん荒れていたが、台所と 思しき磨りガラス越しの窓辺に物が置いてあって、だれかが住んでいるような 生活の気配がうっすらと漂っていた。

2019|紙にインク、糸にインク、テキスト、本多静雄「青隹自伝」、本多秋五「古い記憶の井戸」、メーテルリンク「青い鳥」、司馬遼太郎「北斗の人」|インスタレーションサイズ
アートデイズとよた2019 "Toyota Specfic : Recalled Folklore 誰かの思い出"
旧海老名三平邸(豊田市民芸の森)