古い本
古本というものが苦手で、買う時はほとんど新品で買ってしまう。
図書館の本に関しても、最近になってようやく借りることができるようになったのだが、まだ少し抵抗がある。古本と同様に古着というものも苦手で、かつて誰かが使っていたという事実、目には見えない形でも元の所有者の空気がそこにじっとりと染み込んでいるような気がしてしまう。
それが家族や親戚、親しい人から譲り受けた物ならば本も服も問題ないのだが、どこのどなたか分からない人が着ていたり読んでいたりした物は、なんだか恐いのである。
先日、常滑市立図書館で谷川徹三の蔵書を借りてきたのだが、これに関しては元の所有者が明確なのでまあそんなに問題はなかった。ただ、図書館の本は多くの人たちが借りることのできるものである。それを今、自分の手元に一時的であるにせよ置いてあることが、やはり恐い。
◇
具体的にどう恐いのかと言うと、そこに刻まれている文字に不特定多数の視線も刻み込まれているように思えてしまって恐い。
今読んでいるのは自分だけだが、それ以前に読んでいた人々の視線と今の自分の視線がそこで重なっている。本はひとりでしか読めないはずのもので、ひとりの中へ閉じこもっていく性質もある。それが心地良くもあるはずなのだが、古本や図書館の本はそうはさせてくれない。常に誰かの視線がそこにある。
◇
結局は、所有したい、独占したいという欲なのかも知れないが、殊に古本、そしてそこにある文字(活字)というものに関しては畏れ多い。
例えば谷川徹三の蔵書のある一室は、蛍光灯が点いておらず、うっすらと昼間の光が染み込んでいるだけだった。本棚と本棚の間に立って一瞬怯んだ。古さを携え、さらに多くの人たちの視線を吸収し、閉じられて整然と並べられた状態の本、そこに孕まれている無数の文字。文字。文字。文字・・・。その背表紙に手を伸ばすことさえ少し恐かった。
文字というものは生き物なんだと思う。そこでは、文字は誰かに読まれるのを待ち続けて、ひっそりと息をしているようだった。文字の呼吸がページの一枚一枚を古びた黄色に変色させていくように。
図書館の本に関しても、最近になってようやく借りることができるようになったのだが、まだ少し抵抗がある。古本と同様に古着というものも苦手で、かつて誰かが使っていたという事実、目には見えない形でも元の所有者の空気がそこにじっとりと染み込んでいるような気がしてしまう。
それが家族や親戚、親しい人から譲り受けた物ならば本も服も問題ないのだが、どこのどなたか分からない人が着ていたり読んでいたりした物は、なんだか恐いのである。
先日、常滑市立図書館で谷川徹三の蔵書を借りてきたのだが、これに関しては元の所有者が明確なのでまあそんなに問題はなかった。ただ、図書館の本は多くの人たちが借りることのできるものである。それを今、自分の手元に一時的であるにせよ置いてあることが、やはり恐い。
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具体的にどう恐いのかと言うと、そこに刻まれている文字に不特定多数の視線も刻み込まれているように思えてしまって恐い。
今読んでいるのは自分だけだが、それ以前に読んでいた人々の視線と今の自分の視線がそこで重なっている。本はひとりでしか読めないはずのもので、ひとりの中へ閉じこもっていく性質もある。それが心地良くもあるはずなのだが、古本や図書館の本はそうはさせてくれない。常に誰かの視線がそこにある。
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結局は、所有したい、独占したいという欲なのかも知れないが、殊に古本、そしてそこにある文字(活字)というものに関しては畏れ多い。
例えば谷川徹三の蔵書のある一室は、蛍光灯が点いておらず、うっすらと昼間の光が染み込んでいるだけだった。本棚と本棚の間に立って一瞬怯んだ。古さを携え、さらに多くの人たちの視線を吸収し、閉じられて整然と並べられた状態の本、そこに孕まれている無数の文字。文字。文字。文字・・・。その背表紙に手を伸ばすことさえ少し恐かった。
文字というものは生き物なんだと思う。そこでは、文字は誰かに読まれるのを待ち続けて、ひっそりと息をしているようだった。文字の呼吸がページの一枚一枚を古びた黄色に変色させていくように。
